2020/04/01 |
定量的システムズ薬理学(Quantitative and Systems Pharmacology)は,2011 年米国NIHにより提案された新しい研究戦略であり,新薬や既存薬の前臨床及び 臨床における作用メカニズムを明らかにします。すなわち単独治療薬や複合的治療 薬により,ヒト疾患の病態生理ネットワークを制御することで,各個別患者の治療 如果を最大にし,かつ毒性を最少化し,個別化医療(personalized medicine)や 精密医療(precision medicine)を実現します。分子から臨床集団までの次元で, フォワード薬理学とリバース薬理学を統合した融合科学であり,強力なPK/PDモ デルを基盤とした21世紀型薬理学であります。本学システムズ薬理学は,ゼブラフィッ シュをPK/PD基盤モデルとして,世界をリードする定量的システムズ薬理学のコア となる実践的研究(修士 •博士課程)を展開します。
【指導内容】
フォワード薬理学とは,治療薬によるフュメタイプ(薬理作用)から薬物標的分 子を同定し,オミクス機構の解明を試みる研究戦略であり,ゲノム創薬以前には創 薬の基本であり古典的薬理学と呼ばれていました。ポストゲノムシークェンス時代 に勃興したリバース薬理学は,まず特定の病態における創薬ターゲット分子を決定 し,そのターゲット分子に作用する治療薬候補を探索し,最終的に薬理作用を確立 する薬理学であり,現状の中心的創薬戦略となっています。最近,このリバース薬 理学が画期的新薬開発に必ずしも有効ではなく,画期的新薬開発は依然としてフニ ノタイプスクリーニングにより実現していることが明らかとなり,フォワード薬理 学の新しい役割が世界的に注自されています。具体的にはゼブラフィッシュにより フュノタイプスクリーニングの高速化,定量化,自動化,高度化,精密化が強化さ れることにより,オミクス解析の急激な発展に対応できるようになりました。リバ一 ス薬理学と統合的な研究戦略が可能なフォワード薬理学がゼブラフィッシュ創薬に おいて実現しつつあり,この統合的フォワード•リバース薬理学(修士 •博士課程) を研究指導します。
従来の薬理学はハイスループットが可能なiPS細胞などヒト細胞やロースループッ 卜ながらin vivo メカニズム解析に活用してきた哺乳類が2大モデル生物でした。 最近、ゼブラフィッシュが薬理フェノミクスのライブin vivoハイスル一プットス クリーニングを実現できる数少ない第三のモデル生物として米国NIHが推進し,全 く新しい創薬パラダイムを実現し,画期的医薬品やドラッグ•リポジショニングに おいて明確な開発成果を出しております。ゼブラフィッシュ創薬は,フォワード薬 理学とリバース薬理学を統合したものであり,強力なPK/PDモデルとして,21世紀 における真のシステムズ薬理学研究戦略であります。さらに臨床ヒトがん細胞のゼ ブラフィッシュ移植システムは,次世代フェノミクス精密医療(Precision,Medicin e,プレシジョンメディシン)システムのコアテクノロジ一として期待されており, 本学でも着実に成果が出ております。