2019/07/25 |
ゼブラフィッシュ創薬は、創薬戦略にパラダイムシフトを確実に起こしているが、まだ国際的に10年余の歴史しかなく技術的にも経験的にも未熟な部分を多く残しているため、本来持っているポテンシャルを引き出せていない可能性がある。そこでまず、ゼブラフィッシュ創薬のプロセス強化が必須であると考える。特に1)広範なヒト病態モデルの拡充と高度化、2)ゼブラフィッシュ病態フェノミクス解析の先端技術、3)in vivoハイスループットスクリーニングの自動化、定量化、高速化、高度化は、ゼブラフィッシュ創薬の成否を決める最重要技術革新であり、それら課題についての現状と取るべき対策について述べる。ただし、これらの実現には、膨大な情報を必要とし、IoTのゼブラフィッシュ版であるInternet of Zebrafish(IoZ)展開によるビッグデータのAI創薬への発展が不可欠とるのは想像に難くない。
1) ヒト病態モデル創生には、ヒト化などの高度化と種類の多様性が必要条件となっている。まず他の種でも可能となったゲノム編集技術(ZFN,TALEN,CRISPRなど)により、ゼブラフィッシュでも広範なヒト疾患遺伝子のノックアウトやノックインが容易になされ、多様な単一遺伝子疾患モデルが開発されている。一方、ゼブラフィッシュ薬物動態遺伝子のノックアウトおよびヒト薬物動態遺伝子のノックインなどにより全身の薬物動態をできるだけヒト化することが可能になりつつある。さらにヒトiPS細胞などの移植によるヒト化キメラゼブラフィッシュの創生により組織レベルでのヒト化ゼブラフィッシュが実現しつつある(図4)。また、高度免疫不全マウスでも実現しているように、造血幹細胞や末梢血由来単核球(PBMC)などの移植による免疫系ヒト化ゼブラフィッシュが創生されると、がん免疫療法の評価システムとしても有用性が強化されることになる。
2) ゼブラフィッシュ病態フェノミクス解析技術は、ゼブラフィッシュ創薬のコアテクノロジーの一つで、ゼブラフィッシュ創薬において定量的フェノタイプ解析がスタート点であることからすべてを決定する重要な基盤技術となる(図4)。脊椎動物であるゼブラフィッシュは、多くの場合ヒト臨床フェノタイプとの類似性やそのオミクス機構における相同性も期待されている。すなわち、ヒト病態ゼブラフィッシュモデルの定量的フェノタイプスクリーニングの新しいポテンシャルとしてスループットとフェノタイプ外挿性を同時に実現していることから、ヒト臨床オミクスに外挿した定量的薬効解析が可能となる。しかしながら、現時点ではオミクス基盤における外挿性が保証された疾患フェノタイプモデル(すなわちヒト疾患ゼブラフィッシュモデルフェノミクス)が不十分であり、その先端化と拡充が、緊急課題となっている。
3) 脊椎動物でライブin vivoスクリーニングがハイスループットで実現することが、ゼブラフィッシュ創薬最大の特徴であることは明らかである。国際的に2000年から、96ウエルプレートによるゼブラフィッシュスクリーニングが開始されたが、現在我々は1536ウエルプレートゼブラフィッシュスクリーニングシステムなどを目的別に開発している。具体的には、ゼブラフィッシュ創薬の成否を決める受精卵品質管理プロトコルを、世界で初めて1536ウエルプレート受精卵タイムラプス共焦点イメージングにより確立している。このシステムは、サリドマイドなどの発生毒性メカニズム解析に、新しい洞察を可能にしている。ゼブラフィッシュ疾患ゲノム全体はヒトと約80%の相同性があるとされているが、ゲノムシークエンス差異はむしろヒト臨床がん細胞移植部位の宿主ゼブラフィッシュ微小環境とヒト移植がん細胞の次世代DNAシークエンサー(RNAseq)などによる相互作用解析に有利な点ともいえる(27−29)。TALENやCRISPRによるゲノム編集がゼブラフィッシュにも高効率に応用できることなどから、創薬ターゲットバリデーションや新薬作用機構の解明におけるスループットを圧倒的に高くしている。これまでにも我々は、Dravet症候群や筋ジストロフィーなどの単一遺伝子疾患モデルに加えメタボリックシンドロームや心不全などの生活習慣病モデルを多数創生し、メカニズムや化合物のスクリーニングを展開している。さらに、種々の色素欠損ラインと細胞選択的蛍光蛋白トランスジェニックゼブラフィッシュとの交配などにより、各ヒト病態モデルのライブin vivoイメージング用ゼブラフィッシュを現時点で64種類(MieKomachiシリーズ)開発し、定量的フェノタイプスクリーニングに活用してきている。一方で、トランスジェニック蛍光ゼブラフィッシュでカバーできない生体内細胞ライブin vivoイメージング用プローブを多数創製し、各病態イメージングに活用している。これらの基盤技術をさらに強化して、オミクス研究の急速な発展に対応できる独自に開発したZFplateを核にフェノミクス解析システムを構築するため、ライブin vivoイメージングをコアに、高速化、定量化、高度化等によるフル自動化とInternet of Zebrafish(ゼブラフィッシュ版のIoT)やAI創薬の実現を目指している。すなわち、行動やin vivoイメージングなどのフェノタイプ解析における膨大な変数項目測定を可能にし、オミクスとの相関解析を実現し、新しいメカニズム解明を実現している。さらに、ヒトがん幹細胞移植モデルを確立して(48)、新規蛍光ヒトがん幹細胞阻害薬を発見し、ヒトがん幹細胞におけるステムネス機構を解析している。
以上、新しい医学研究モデル動物であるゼブラフィッシュは、次世代プレシジョンメディシンや創薬などにおいて、トランスレーショナル医学研究開発ツールとしてこの21世紀に中心的役割を果たすことが、期待されている。