2019/11/27 |
わが国ではがんが死因のトップですが、後期高齢者では循環器疾患による死亡者数の方が多く、がんと循環器疾患を合併する患者が増加している。またがん治療の進歩により、がん患者の予後は大幅に改善し、緩解あるいは完治するケースも多くなってきましたが、抗がん剤の多くは心毒性などを発現することは、よく知られている。従って特に高齢者や心血管疾患のハイリスク患者にがん治療を行った場合、高率に心不全になると考えられる。そこで、がん患者のQOLを改善するために国際的にもOnco-Cardiologyが、急激に発展している。すなわち、急激な高齢化社会によりがん患者が増加しているが、分子標的薬などによるがん治療の展開は著しく、現時点でも一部のがんは不治の病ではなく、治癒が期待できる(がんサバイバー)時代に入りつつある。一方、古くからアントラサイクリン系薬物の心毒性が有名であるが、最近特に多数の様々な分子標的薬が開発され、広範な臨床がん治療薬として使用されていることから、晩発性の循環器疾患発症リスクも注目されるようになっている。しかしながら現状では抗がん剤による循環器系合併症の正確な発症頻度や発症機序が不明であり、今後のOnco-Cardiologyにおける進展が期待されている。
そこで、我々は今後も爆発的に開発されてくる分子標的薬などの最も深刻な副作用である心毒性に焦点を当て、新しいin vivoハイスループットスクリーニングシステムを構築し、大規模なスクリーニングを実施した。まず、心筋において選択的にGFPが発現する透明なゼブラフィッシュ(MieKomachi009)を、創生した。また、ゼブラフィッシュin vivoライブハイコンテンツイメージング用の96ウエルプレート(ZFplate)を、開発した。さらに、ハイコンテンツイメージャーによるスクリーニングの自動化を試みた。その結果、マニュアルスクリーニング法と比較して、約10倍のスループットを達成した。この新しいin vivo 心毒性ハイスループットスクリーニングにより、数多くの抗がん剤がヒットした。その中で肝細胞がんなどに使用されている経口マルチキナーゼ阻害薬であるsorafenibの心毒性が明らかとなった。すなわち、ヒト臨床試験における血中濃度が約6μMであるが、1μMからゼブラフィッシュに心不全症状が認められた。さらに、心機能解析により心毒性が明らかとなった。その心毒性機構を解明するため、ゼブラフィッシュ心筋におけるトランスクリプトーム解析を実施した。その結果、sorafenibにより、56遺伝子の発現上昇と159遺伝子の発現低下が、示された。これらの発現変動遺伝子のバイオインフォマティックス解析により、stanniocalcin1に注目したところ、ゼブラフィッシュ心筋のみならずヒト心筋細胞のstanniocalcin1が、sorafenibにより発現低下することが明らかとなった。さらにヒト心筋細胞およびゼブラフィッシュのsorafenib遺伝子ノックダウンやsorafenibにより活性酸素が増加した。一方、ゼブラフィッシュのstanniocalcin1遺伝子ノックダウンによりsorafenibと同様の心機能障害が認められ、これらの心毒性は両方ともstanniocalcin1mRNA導入により軽減した。これらの結果を総合すると、sorafenibによる心毒性においてstanniocalcin 1 遺伝子発現低下が重要な役割を果たしていることが示唆され、Onco-Cardiologyにおけるゼブラフィッシュの有効性が明らかとなった。