2022/09/30 |
ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームなどのトランスオミクスは、近年解析技術の著しい発展に伴いプレシジョンメディシンの基盤となりつつある。しかしながらがんゲノムプロファイリング検査を受けても遺伝子異常に対応した治療に結びつく割合は、現状では10?20%であるとされている。
一方PDXマウスモデル(PDXM)は、旧来の2D培養細胞よりも、ヒトがんの遺伝学的複雑さを詳しく捉えることができ、臨床外挿性の高いことが報告されているが、いくつかの課題も残されている。例えばPDXMによるプレシジョンメディシンには約1年間3回の植え継ぎに時間がかかるため、ドナーに利益を還元するところまでいかないのが現実である。さらにPDXMは、正常な免疫応答が起こらない高度免疫不全マウスで作製されている。ヒト免疫系の複雑さを完全に再現したヒト化マウス創成が試みられているが、今のところ存在しない。
そこで、正常免疫であるゼブラフィッシュによる新しい患者がん移植ゼブラフィッシュモデル(PDXZ)への展開を、試みている。すなわち免疫システムが未熟な受精後36時間以内の正常ゼブラフィッシュへの患者がん移植の生着率の高さや生着スピードが速いこと、1匹のゼブラフィッシュ移植に必要な患者がん細胞が100個以下で、1臨床検体で100匹以上の初代移植ゼブラフィッシュが可能であり、その後2日間で薬効定量解析できるなどの利点から、世界で患者がん検体のゼブラフィッシュ移植モデルが展開されている。その結果、PDXZにおける薬物感受性と術後臨床薬物応答性に、明確な相関が認められる。自験例では、膵がん/gemcitabine,5-FU、海外では大腸癌/FOLFOX、乳がん/olaparibなどが明らかにされている。これらヒト臨床がん細胞のゼブラフィッシュ移植システム(PDXZ)は、PDXMより圧倒的に迅速な治療薬感受性試験が実現しており、抗がん剤選択のための臨床体外診断システムとして、次世代個別化医療ツールになることが期待され,
各患者がん検体のフェノミクス定量解析結果をその患者の治療薬選択にリアルタイムで活用することができ、次世代プレシジョンメディシンの一つの戦略であると思われる。さらに、独自の透明化ゼブラフィッシュ(MieKomachiシリーズ)などをin vivoライブイメージングに活用することにより、リアルタイムに移植がん細胞と微小環境の相互作用や治療薬抵抗性機構の解析が実現する。