| 2025/12/04 |
局所での増殖と薬効の解析評価を確実に行うため、いわば「細胞が逃げない安全な場所」に移植する必要があります。
その最適な移植部位は、「卵黄嚢(Yolk Sac)の、心臓や主要血管から最も離れた、中央部からやや尾部側、あるいは腹側(下側)の空間」です。
専門的にはPVS (Perivitelline Space: 卵黄周囲腔) と呼ばれる、卵黄本体と胚を包む膜との間にある「空間」を指します。
最適な移植部位:PVSの「安全地帯」
ゼブラフィッシュの幼生(受精後2日程度)の卵黄嚢は、下の図のような構造になっています。
? 危険エリア(避けるべき場所):頭部側・背側
ここには心臓 (Heart) と、前回お話ししたキュビエ管 (Cuvier's duct) が集中しています。
これらは全身循環の「ハブ空港」です。もしこの近くに細胞を移植してしまうと、注入の圧力やわずかな漏れによって、細胞が血流に吸い込まれて全身に散らばってしまうリスクが非常に高くなります。
「局所に留める」という目的においては、最も避けるべきエリアです。
? 最適エリア(狙うべき場所):中央・尾部側・腹側
心臓や太い血管網から物理的に最も遠い場所です。
このエリアは、主要な血流から隔離された、いわば「袋小路」のような空間(PVS)になっています。
ここに細胞を注入すると、細胞は他の場所へ移動する手段がなく、その場に物理的に閉じ込められます。
🔬 注入の具体的なイメージと成功の鍵
針の進入: マイクロインジェクション用の細いガラス針を、卵黄嚢の「最適エリア(?)」の表皮に浅く刺します。
ターゲット: 狙うのは、卵黄の脂質が詰まった**「卵黄塊(Yolk mass)そのもの」ではありません**。その外側にある、ゼリー状の物質で満たされた**「空間(PVS)」**です。
(補足)もし卵黄塊の「中」に注入しようとすると、針が詰まったり、高圧で細胞が周囲に飛び散ったりするため、通常は行いません。
細胞の注入: この空間に、がん細胞の懸濁液を微量(数ナノリットル)注入します。
結果: 注入されたがん細胞は、PVSという「隔離された空間」に留まり、互いに接着して3次元的な**腫瘍マス(細胞の塊)**を形成します。
📈 なぜこの部位が薬効評価に確実なのか
この「最適エリア(PVS)」に移植する手法が、薬剤評価において"確実"とされる理由は以下の通りです。
細胞が逃げない(ロスの防止) 血流に乗って全身に散らばってしまうと、「もともと何個の細胞が腫瘍を形成しようとしていたか」が分からなくなります。PVSに閉じ込めることで、注入した細胞がほぼ100%そこにあると見なせます。
定量が容易 細胞が1ヶ所に固まっているため、蛍光顕微鏡で見たときの「腫瘍マスの面積」や「蛍光の総強度」を画像解析ソフトで簡単に、かつ正確に測定できます。
純粋な薬剤効果の測定 「薬を投与したら、この1ヶ所の腫瘍マスが小さくなった/増殖が止まった」という結果が、非常にクリアに得られます。これが「薬効の定量」です。
結論
局所増殖モデルで最も重要なのは、「いかに細胞を循環系(血流)に入れないか」です。
したがって、血流のハブである心臓やキュビエ管(頭部側)から最も遠い、卵黄嚢の中央〜尾部側・腹側のPVS(空間)が、細胞を安全に留め、その後の増殖や薬効を確実に評価するための最適な移植部位となります。
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