2010/05/18 |
微小管は、網膜色素変性症などの網膜変性疾患の原因遺伝子の機能と密接に関連していることが知られている。網膜変性疾患は、先進諸国における失明の原因の上位を占めており、網膜における微小管の機能を解析することは、網膜変性疾患の分子病態を解明するために極めて重要である。従来、網膜における微小管の機能解析は、微小管関連蛋白質のジーンターゲティングなどの遺伝子工学的手法を用いて行われてきた。我々は、微小管構成蛋白質であるチューブリンの網膜における機能を解析するために、チューブリン阻害剤を用いたケミカルバイオロジー的手法をゼブラフィッシュに適用した。小型魚類であるゼブラフィッシュは、ヒトと極めて類似した網膜を有しており、網膜発生の研究に頻用されてきた。またゼブラフィッシュは、小スペースで多数の個体の飼育が可能であるだけでなく、経皮吸収を介した薬物投与が容易である。したがって、チューブリン阻害剤を任意の時間や濃度で投与することにより、チューブリンの機能を自由に抑制することが可能である。我々は、各種微小管阻害剤を、様々な濃度や期間でゼブラフィッシュ稚魚に投与した。微小管阻害剤の投与が網膜の発生に与える影響は、我々が開発した網膜神経可視化色素を用いたライブイメージングにより評価した。その結果、微小管重合阻害剤であるmebendazoleとnocodazoleの投与により、網膜の内網状層の形成が特異的に障害されることを見出した。現在、DNAマイクロアレイを用いたゲノムワイドな遺伝子発現解析により、この分子機構を解析中である。本研究により、ゼブラフィッシュ網膜を用いたケミカルバイオロジ−的手法が、網膜における微小管の機能を選択的に阻害することにより、微小管の網膜発生における詳細な機能解析や、網膜発生障害を指標にした微小管阻害剤の新たな機能的分類を可能にする有効な研究戦略であることが示唆された。また、様々な網膜疾患原因遺伝子の機能的基盤である微小管を任意に制御できることから、網膜変性疾患に共通する分子機構の解析にも有効な手法であることが示唆される。