2012/11/30 |
第22回日本循環薬理学会年会(2012年11月30日、富山国際会議場)にて下記の演題を発表する予定です。
脳血管におけるトランスポーターの基質認識性解析
西村有平1,2,3,4、梅本紀子1、張孜1、張貝貝1、黒柳淳哉1、島田康人1,2,3,4、田中利男1,2,3,4
1三重大学大学院医学系研究科 薬理ゲノミクス
2三重大学メディカルゼブラフィッシュ研究センター
3三重大学新産業創成研究拠点 オミックス医学研究室
4三重大学生命科学研究支援センター バイオインフォマティクス
背景:近年の科学技術の発達により、アルツハイマー病や脳腫瘍など様々な中枢神経系疾患の分子機構が明らかにされつつある。これらの疾患関連分子に対して選択的に作用する薬物は、薬効が高く、副作用の少ない医薬品になることが期待される。しかし、中枢神経系疾患に対する薬物は血液脳関門を通過して、中枢での有効濃度に到達しなければその効果を発揮できない。血液網膜関門を構成する血管内皮細胞には、トランスポーターと呼ばれる蛋白質が存在する。多くの薬物はこれらのトランスポーターに認識され、血管内皮細胞から血液中に排出されてしまうため、脳へほとんど移行しない。中枢移行性の高い薬物を開発するためには、トランスポーターに認識されにくい化学構造を明らかにする必要がある。
方法と結果:ゼブラフィッシュは体が透明であるため、体内に吸収された蛍光低分子化合物の動態を、蛍光顕微鏡を用いて解析することが可能である(BMC Neuroscience 11:116, 2010)。本研究では、6種類の構造が類似するインドリン系蛍光色素を合成し、ゼブラフィッシュ体内における蛍光色素の動態を解析した。これらのインドリン色素のうち、ZMJ018は脳血管内に留まるが、ZMB034は脳血管から脳内へ色素が漏出した。一方、血液脳関門トランスポーターのひとつであるmultidrug resistance proteins を阻害したゼブラフィッシュでは、ZMJ018が脳血管から脳内へ漏出した。ZMB024 とZMJ018は側鎖のメチル基の長さが1個だけ異なっている。この構造の違いが血液脳関門トランスポーターの基質認識性に影響していることが示唆された。
結論:インドリン系蛍光色素は多様な構造類似化合物を合成することができ、ゼブラフィッシュを用いた蛍光ライブイメージングと組み合わせることにより、血液脳関門トランスポーターの基質認識性と化学構造との相関解析を行うことが可能である。これらのデータは、中枢移行性の高い薬物の開発において有用な基盤情報となりうる(BMC Neuroscience 13:101, 2012)。