2013/05/07 |
ヒト前立腺がん移植ゼブラフィッシュによる遠隔転移に関するシステムズ薬理学研究
○植田智希1、島田康人1-5、張貝貝1、有吉美稚子1、梅本紀子1,3、西村有平1-5、田中利男1-5(1三重大・院・医・薬理ゲノミクス、2三重大・メディカルゼブラフィッシュ研セ、3三重大・院・医・システムズ薬理、4三重大・生命・バイオインフォ、5三重大・新産業創成・オミックス医)
E-mail:tanaka@doc.medic.mie-u.ac.jp
分子標的薬や抗体医療の出現とともに、がんの治癒率は劇的に改善してきている。しかし、長期生命予後に最も影響を与える因子である遠隔転移に対する治療法は不十分であり、遠隔転移を発症した患者の生存率は非常に低い。この遠隔転移に対する治療薬開発の大きなボトルネックの1つには実験モデルの未成熟さがある。
がんの遠隔転移は、腫瘍細胞の局所からの移動、血管・リンパ管への脱出、そして多臓器への接着・増殖という複数の段階を経て起こる。in vitroのモデルとしては、スフェロイド形成能や遊走能試験、Tube formation assayなどがあるが、これらの技術では前述の遠隔転移発症の複雑性を反映できておらず、次に続く動物試験での再現性の低さが問題視されている。しかしマウスなどのin vivoモデルをメカニズム解析や創薬研究等に使用するのは、動物愛護・労力・実験期間の面で負担が大きく、新規メカニズムの発見や治療標的の同定に最初の段階から用いるのは現実的ではない。
今回我々の研究室ではこれらの問題を解決しうる技術基盤として、ヒト由来がん細胞をゼブラフィッシュに移植するモデルを用いて、in vivo系における抗がん剤応答性の定量的解析システムを構築することに成功した(特願2012-234617)。具体的には、蛍光タンパク質(Kusabira-orange)恒常発現前立腺がん細胞株(PC-3-KOr)をゼブラフィッシュに移植し、これらを96ウェルプレート内で飼育、試験医薬品を投与した後、継時的にハイコンテントイメージャーを用いて画像を取得した。その後腫瘍サイズ・遠隔転移の定量的画像解析を行っている。既存薬ライブラリーを用いたスクリーニング実験の結果、パクリタキセルやカタランチンなどのポジティブコントロール群について投与後3日目の段階で抗腫瘍効果、転移能の抑制が検出され(P < 0.05)、本技術の有用性が確認できた。本研究成果により、マウスなどのげっ歯類モデルでは達成不可能なスループットの次世代in vivoモデルとしてのシステムを構築できた。さらに本システムを用いて、新規の抗腫瘍増殖・抗転移抑制薬を探索したので報告する。