2013/11/01 |
第124回日本薬理学会近畿部会にて下記の演題を発表します。
新しい網膜変性疾患モデルの創成と機能解析
西村有平1,2,3,4,5、今鉄男1、笹川翔太1、中村祐基1、村上宗一郎1、川端美湖1、梅本紀子1,3、張貝貝1、黒柳淳哉1、島田康人1,2,3,4,5、田中利男1,2,3,4,5
1三重大・院・医・薬理ゲノミクス、2三重大学メディカルゼブラフィッシュ研究セ、3三重大・院・医・システムズ薬理学、4三重大・新産業創成研・オミックス医学研、5三重大・生命科学研究支援セ・バイオインフォ
近年、網膜変性疾患の原因遺伝子が続々と明らかにされているが、その詳細な分子機構に関しては依然として不明な点が多く残されている。本研究では、微小管と膜小胞をつなぐダイナクチン複合体の主要な構成分子であるアクチン関連タンパク質(arp1)の網膜における機能を、ゼブラフィッシュを用いて解析した。ゼブラフィッシュの受精卵にarp1に対するアンチセンス核酸をマイクロインジェクションすると、arp1の発現抑制と視細胞の形成障害を認めた。この視細胞形成障害は、ヒトarp1 mRNAの同時投与により回復した。arp1のノックダウンにより、157遺伝子の発現が有意に変化し、そのうち19個は様々な網膜疾患の原因遺伝子であった。また、42個の遺伝子が視細胞の繊毛に局在するタンパク質をコードしていた。他の視細胞変性モデルとして、変異型polycystin 2を過剰発現したラット網膜、retinal degeneration slow遺伝子ノックアウトマウスの網膜おけるトランスクリプトームのデータを公共データベースからダウンロードし、arp1ノックダウンのトランスクリプトームデータと比較解析したところ、変異型polycystin 2を過剰発現したラット網膜における発現変動遺伝子と有意な重複を認めた。他の繊毛症による視細胞変性モデルであるBardet-Biedl syndrome 4遺伝子ノックアウトマウスの網膜における発現変動遺伝子も、arp1ノックダウンによる発現変動遺伝子と有意に重複していた。以上の結果から、arp1遺伝子の機能障害による視細胞形成障害は、繊毛症における視細胞変性と類似しており、これらの病態に共通する分子機構の詳細な解析が、網膜変性疾患に対する新しい治療法の開発につながる可能性が示唆された。