2010/06/17 |
現在臨床で使用されている治療薬や、新規に開発される薬物の中に、網膜毒性を有するものが存在することが知られている。例えば1993年から2006年までに開発が中止された薬物のうち、7%の薬物が網膜毒性を有していることが報告されている。製薬会社における網膜毒性試験は、医薬品開発の後期段階に少数の大動物を用いて行われることが多い。この段階で開発が中止されることは、製薬会社にとり大きな損害であるだけでなく、人類が必要とする他の新規薬物の開発経費の圧迫にもつながりかねない。これらの状況から、 薬物の網膜毒性スクリーニングを簡便、高速かつ安価に行うことができるモデル動物の重要性が示唆される。
小型魚類であるゼブラフィッシュは、多産で飼育が容易なため、低コストで多数の個体を得ることができる。また、ゼブラフィッシュは、ヒトと極めて類似した網膜構造を有しているだけでなく、経皮吸収が活発であるため、飼育水に投与された薬物は容易に体内に吸収される。このような特徴を有するゼブラフィッシュを用いた網膜細胞毒性スクリーニングの有用性を明らかにしたので報告する。
従来のゼブラフィッシュ網膜の形態学的評価は、切片の免疫組織染色を用いて行われてきた。この方法は感度と特異性の点で優れているが、時間がかかるため高速スクリーニングには適していない。我々は、ゼブラフィッシュの網膜細胞を、生きたまま非侵襲的に観察可能にする蛍光色素を見出した。この蛍光色素を用いて、ヒトの鞭虫感染症治療薬であるメベンダゾールの網膜細胞毒性を可視化することに成功した。さらに、DNAマイクロアレイを用いたゲノムワイドな遺伝子発現解析により、メベンダゾールの網膜細胞毒性の分子機構解明を試みた。本研究はNEDO(網膜疾患の蛍光画像診断を実現する蛍光染料プローブの実用化研究)からの支援を受けている。