2020/05/26 |
ゼブラフィッシュは1匹あたり100個程度のガン細胞を直接移植するだけで済むので、うまくやると患者さんから角砂糖1個分のガン組織を頂いた直後に、数百匹のゼブラフィッシュで検査できる準備が整います。既存の抗がん剤の効きを確認すると同時に、他のガン用の抗がん
剤や研究中の新しい抗がん剤の効きも確認できる検体数があります。あるガンに対して既存の抗がん剤が全て効かなくても、もしかしたら効く薬剤が見つかるかもしれません。
そういったことを可能にするのが、ゼブラフィッシュによるスクリーニング系です。魚類は体外受精なので受精直後から観察対象にできます。マウスは母体から生まれてからでないと患者さんのガンを移植できませんので、そうなると免疫系が出来上がっているため、移植し
ても拒絶されます。魚は受精卵の初期、理想は28時間以内ですが36時間以内であれば免疫寛容の状態のため、移植生着しやすいのです。ゼブラの場合は、最初に頂いた角砂糖1個分だけで数百匹の検体を用意できます。
さて、検体数が多いということは、先ほど述べた通りのメリットが大きいわけですが、作業的には大変な労力が必要となります。そこで有用になってくるのが自動分注装置なのです。
ゼブラへのガンの移植は、受精卵(直径1?程度)の卵殻を除去して強制的に孵化させ、2〜3?の稚魚に対して行います。作業量が膨大なので、自動分注機を活用しないと患者さんを待たせることになってしまいます。私たちは患者さんの術後100時間以内に結果を返す
ことを可能にするシステムを目指しています。100時間というのは、例えば膵がんであれば術後に抗がん剤を投与できるぐらいに回復するのに要する時間より短いので、十分速い時間と
考えています。
ガン以外にも課題となる疾患はたくさんあって、例えば高齢化社会になってその患者さん数の多さが顕著になってきているのが加齢性難聴です。この治療薬の研究にもゼブラは役立つことが明らかにされています。内耳の細胞はマウス等からは少ししか得られませんが、ゼブ
ラは体表に、内耳細胞と同じ由来の細胞からなる側線という器官があります。ゲンタマイシンという抗生物質が副作用で内耳の細胞を壊すのですが、ゲンタマイシンのような難聴誘発剤をゼブラに投与すると、この側線の細胞がヒトと同様に死にます。そして難聴誘発剤と治
療候補化合物を一緒に投与すると、見事に難聴誘発を阻止する化合物が見つかりました。
魚類は哺乳類からかけはなれているので懐疑的な見方も多くありますが、実際にはこのようにヒトの疾患の治療薬開発に役に立っています。候補化合物のスクリーニングは膨大な数になるため、検体が多数必要になります。マウスを2万匹飼うには8階建ての建物が必要になる
し、コストが膨大です。ゼブラは1ペアで200〜300の卵を産み、1週間に1回産卵させられるので、数万匹を容易に用意できます。ゼブラはin vivoでハイスループットを実現できる唯一といっていい脊椎動物です。