| 2025/11/25 |
平成8(1996) 年10 月25日、津市にある三重県総合文化センターで開催する ことができましたので、ご報告致します。総演題数95題、 総参加者数452人となり90回を数える近畿部会としては 最大の規模となりました。特に、今回企画しましたシン ポジウム「細胞シグナリングと遺伝子発現」におきましては予想以上の人々の参加と活発な討論があり、今後の 薬理学における新しい潮流を感じとることができました。
すなわち、国立小児医療研究センター分子細胞薬理学の辻本豪三先生他は、受容体細胞内局在可視化技術とその応用と題して発表され、Green Fluorescent Protein 標識受容体の細胞内局在の同定、更に各種薬理学的操作による細胞内局在の変化を経時的にモニターすることが 共焦点レーザー顕微鏡を用いることにより成功したと報告された。京都大学医学部薬理学の成宮周先生は、低分子量G蛋白質Rho の細胞内シグナリングと題して、Rho の作用発現のメカニズムを示された。名古屋大学医学部薬理学の横倉久幸先生他はカルモジュリンキナーゼフ ァミリーの蛋白質リン酸化による活性調節の演題で、 CaM Kinase分子の多様性とそれぞれのリン酸化を介した活性調節機構を明らかにされた。神戸大学医学部薬理学の春藤久人先生他は、カルシニューリンを介する細胞 シグナリング―分裂酵母変異体を用いた解析について、 名古屋大学医学部解剖学3の萩原正敏先生他は転写因子 CREB・ATFファミリーのリン酸化依存的調節機構を、大阪大学医学部薬理学の郭哲輝先生他はモルヒネ耐性・依存形成と一本鎖CRE結合蛋白 質について発表された。三重大学医学部薬理学の伊奈田宏康先生他は、血管平滑筋のシグナル伝達と遺伝子発現機構と題して、プロテインキナーゼCによるシグナル伝達は血管平滑筋の収縮反応を調節するだけでなく、数多くの遺伝子発現制御に関与しその一部は転写調節因子QMのリン酸化反応を介することを明らかにされた。大阪市立大学医学部薬理学の金勝慶先生他は、バルーン障害後の血管内膜肥厚にMAPキナーゼファミリーの活性化が重要な役割を果たしており、AT受容体が この活性化に一部関与していることを示された。徳島大学薬学部薬理学の天野雄一郎先生他は血管におけるNO産生系のシグナル伝達について、tyrosine kinase, protein kinase C, Ca2+/CaM, NF-κBはいずれもiNOS mRNAの発現までに関与しており複数のシ グナル伝達系がiNOS誘導に関与し、NO産 生が制御されていることを報告された。以上、 このシンポジウムにおいて細胞シグナリングと遺伝子発現の分子機構が解明され、その成果は新しい治療薬の標的分子を明らかにしつつある。さらに、これらの薬理学研究とゲノム医学の統 合により新しいゲノム薬理学時代の到来を示した。
そして、30年を経過した現在は、遺伝子発現からフェノミクス創薬への急激な展開が認められる。さらにこのフェノミクススクリーニングにおけるゼブラフィッシュ創薬がようやく開花している。