| 2025/11/25 |
日本における「がんゲノム医療」の中核をなす**がん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)**について、現在保険適用されている主な検査の種類、それぞれの特徴、費用、そして課題について、専門的な内容をわかりやすく整理して解説します。
1.がんゲノム検査(遺伝子パネル検査)の概要
がんゲノム検査とは、がん細胞の組織や血液を使って、一度に数十〜数百個の遺伝子変異を調べ、その患者さんのがんの特徴に合った治療薬(分子標的薬など)がないかを探す検査です。
日本では現在、主に以下の2つのカテゴリーで保険適用されています。
1.組織検査(Tissue): 手術や生検で採取したがん組織を用いる(基本はこちら)。
2.リキッドバイオプシー(Liquid): 血液を用いる(組織が採れない場合など)。
2. 日本で保険適用されている主要な検査リスト
現在、日本で保険診療として実施可能な主な検査は以下の通りです。
? 組織を用いる検査(Tissue-based)
検査名 開発/販売 解析遺伝子数 特徴・強み
FoundationOne® CDx
(ファウンデーションワン CDx)中外製薬ロシュ 324遺伝子 【世界標準・実績No.1】
米国FDA承認。膨大なデータベースを持ち、多くの薬剤の「コンパニオン診断(適応判定)」を兼ねているため、結果が出ればすぐに薬を使える可能性が高い。
OncoGuide™ NCCオンコパネル シスメックス
国立がん研究センター124遺伝子【日本発・生殖細胞系列も解析】
患者さんの「がん細胞」と「正常細胞(血液)」を比較解析する。
これにより、生まれつきの遺伝性腫瘍(遺伝性のがん)の判定精度が高い。
GenMineTOP
(ジェンマイントップ) コニカミノルタ
東京大学 737遺伝子 【最新・DNAとRNAを同時解析】
遺伝子数が最も多く、DNAだけでなくRNAも解析するため、融合遺伝子(特定の薬剤が効く変異)の検出感度が高い。メチル化解析も可能。
? 血液を用いる検査(Liquid biopsy)
検査名 開発/販売 解析遺伝子数 特徴・強み
FoundationOne® Liquid CDx 中外製薬 324遺伝子 【組織が採れない時の選択肢】
組織版と同じ遺伝子数を解析。組織採取が身体的に負担な場合や、過去の検体が古い場合に用いられる。
Guardant360® CDx
(ガーダント360) ガ?ダントヘルス 74遺伝子【結果返却が早い】
解析遺伝子数を主要なものに絞っているため、結果が出るまでの期間(ターンアラウンドタイム)が比較的短い。
Shutterstock
3. 各検査の詳細な特徴と長所・短所
A. FoundationOne CDx(組織)
•長所: 多くの分子標的薬の添付文書に記載された「コンパニオン診断薬」としての機能を持つため、変異が見つかれば追加検査なしで保険適用の薬を使える。マイクロサテライト不安定性(MSI)や腫瘍遺伝子変異量(TMB)の評価も確立されている。
•短所: 正常細胞との比較を行わないため、見つかった変異が「がん特有のもの」か「生まれつきのもの」かの区別に専門的な解釈が必要になる場合がある。
B. OncoGuide NCCオンコパネル(組織)
•長所: 正常細胞(採血)も同時に調べる「ペア解析」を行うため、ノイズを除去した高精度な解析が可能。また、遺伝性腫瘍(リンチ症候群や遺伝性乳がん卵巣がん症候群など)の可能性をより正確に拾い上げることができる。
•短所: コンパニオン診断機能を持たない薬剤がある場合、薬剤使用のために別途単一遺伝子検査が必要になるケースが稀にある(現在は改善されつつある)。
C. GenMineTOP(組織)
•長所: 遺伝子数が圧倒的に多い。特にRNA解析を併用するため、肺がんなどで重要な「融合遺伝子」の見落としが少ない。
•短所: 比較的新しい検査であり、導入している病院が上記2つに比べてまだ限定的である場合がある。
D. リキッドバイオプシー(FoundationOne Liquid / Guardant360)
•長所: 採血だけで済むため、体への負担が少ない。骨転移などで組織が採りにくい場合でも実施可能。
•短所: 腫瘍が小さい、あるいは全身に散らばっていない場合、血中に漏れ出るDNA量が少なく、**「偽陰性(変異があるのに出ない)」**のリスクが組織検査より高い。