2010/11/11 |
○梅本紀子、西村有平、山中裕貴子、岸誠也、伊藤早紀、岡森加奈、島田康人、黒柳淳哉、張孜、田中利男
心疾患は様々な遺伝子発現変化によりその病態機構が形成されている。しかしながら、病態遺伝子の発現変化と心機能との関係は十分に明らかではない。我々は遺伝子介入が容易であるゼブラフィッシュを適用することにより、遺伝子発現レベルと心機能との関係を解析した。一般的なゼブラフィッシュの遺伝子ノックダウン法にはモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)を用いる。遺伝子発現抑制レベルは受精卵のMO導入量に依存しているが、従来は、過剰にMOを導入することにより、ノックダウン効率は極めて高くなり、臨床病態から解離した病態モデルを構築しているにすぎなかった。そこで我々は、蛍光標識したノンターゲットMOの共導入によりゼブラフィッシュの定量的遺伝子ノックダウン法を確立した。さらに、遺伝子発現変化がもたらす心機能への影響を検討するため、心機能イメージング解析を開発した。これらの方法により、心筋トロポニンT(cTnT)を定量的にノックダウンし、cTnT発現変化と心不全病態との相関を明らかにした。
ゼブラフィッシュの受精卵にcTnT-MOをマイクロインジェクションすると、心不全重症度の異なる複数の表現型が出現する。そこで我々は、cTnT-MOと蛍光標識したノンターゲットMOをゼブラフィッシュ受精卵へ共導入し、蛍光強度とcTnTの発現量の関係を調べた。その結果、蛍光強度と心不全重症度は有意に相関し、蛍光強度とcTnT発現量は逆相関した。すなわち、2種類のMOを共導入し、蛍光強度を測定することより、ノックダウン効率の定量化が実現した。さらに我々は、蛍光色素Bodipy-ceramideが血漿を染めるが心筋壁は染めないという性質を利用して、心室内腔の可視化に成功した。この新しい心機能イメージング法を用いて心室内径、心室容量、心室壁運動速度等を測定することにより、高速かつ高精度に心機能を評価することが可能となった。この方法を用いて、定量的ノックダウン法を適用したcTnTノックダウンモデルにおける心機能解析を行った。その結果、極微量なcTnT発現量の低下が誘導する心機能障害を検出した。すなわち、この方法を用いることにより、病態レベルのcTnT発現低下が及ぼす選択的な心機能障害を明らかにした。
心疾患における病態遺伝子の発現制御と、バイオイメージングによる心機能解析法は、その分子機能を解明する上で極めて重要である。我々が開発したゼブラフィッシュの定量的ノックダウン法及び心臓イメージングによる心機能解析法は、あらゆるヒト心疾患の病態メカニズムの解明及び治療標的分子の探索研究に適用可能であることが示唆される。