2011/03/15 |
オミックス創薬科学とターゲットバリデーション
Omics Drug Discovery and Target Validation
田中 利男1,2,3,4、西村 有平1,2,3,4、島田 康人1,2,3,4
1 三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス、2 三重大学メディカルゼブラフィッシュ研究センター、3 三重大学生命科学研究支援センターバイオインフォマティクス、4 三重大学VBLメディカルケモゲノミクス研究室
ポストゲノムシークエンス時代における分子標的薬開発は、主にリバース遺伝学と細胞レベルでのスクリーニングが広範に活用されてきた。しかし、必ずしも分子標的薬開発の成功率は向上していないとされている。そこで我々は、in vivo ハイスループットスクリーニングシステムを構築し、リバース薬理ゲノミクスとフォーワード薬理ゲノミクスを統合したオミックス創薬科学を試みている(1,Fig.1)。すなわち従来の哺乳類では in vivo スクリーニングが困難であるため、脊椎動物でヒトゲノムと約80%のシンテニーがあり(2)、すでに多数のヒト疾患モデルが存在し、多産性、全身の透明性による in vivo イメージング(3)、動物愛護との調和性が高いなどの特徴があるゼブラフィッシュを活用し、in vivo ハイコンテントスクリーニングおよびオミックス作用機構解析を試みている(Fig.2)。さらに、欧米等ではこの新しいヒト疾患モデルであるゼブラフィッシュ関連の論文が急激に増加している(Fig.3)。具体的にはメタボリックシンドロームモデル(4,Fig.4)、心不全モデルやヒト移植癌モデル(Fig.5)のターゲットバリデーションについて報告した。メタボリックシンドロームにおける内臓脂肪の重要性は、多くの研究成果から明らかにされているが、in vivo 内臓脂肪の制御機構については、不明な点が多く残されている。そこで、独自の肥満モデルを創成し、内臓脂肪遺伝子ネットワーク解析システムを開発した(Fig.4)。このモデルは、短期間においてBMI、血中triglyceride, 血中LDL cholesterolなどの有意な上昇や肝臓における脂肪沈着が確立されている。さらに、非侵襲的in vivo 内臓脂肪イメージングシステムを開発し、同一個体における連続的定量測定を実現している。その結果、独自の食餌性肥満モデルにおいて、in vivo 内臓脂肪は1週間後から有意に増加することが明らかになった(4,Fig.4)。そこで内臓脂肪を分離してマイクロアレイによるトランスクリプトーム解析から、この内臓脂肪にはヒトを含む哺乳類と同様に多数の動脈硬化関連遺伝子や血栓症関連遺伝子が発現誘導しており、食餌療法によりこれらの病態関連遺伝子群が選択的に発現低下し内臓脂肪量が減少することや、statin 系医薬品により血中LDL cholesterol は有意に低下することを、明らかにしている(4)。そこで,このモデルの内臓脂肪遺伝子ノックダウンスクリーニングから新規治療ターゲットを見出している(1,4,Fig.6)。さらに、心不全モデルやヒト移植がんモデル(Fig.5)における新しい治療遺伝子についても報告した。すなわち、心不全やヒト移植癌のin vivo増殖、in vivo腫瘍血管新生、in vivo遠隔転移等に対する治療的作用が認められる遺伝子(治療遺伝子)のターゲットバリデーション研究において、ゼブラフィッシュは重要な役割を果たしつつある。
1)Pharmacogenomics of cardiovascular pharmacology: pharmacogenomic network of cardiovascular disease models.
Tanaka T, Oka T, Shimada Y, Umemoto N, Kuroyanagi J, Sakamoto C, Zang L, Wang Z, Nishimura Y.
J Pharmacol Sci. 2008 May;107(1):8-14.
2)Zebrafish beta-adorenergic receptor mRNA expression and control of pigmentation
Wang Z, Nishimura Y, Shimada Y, Umemoto N, Hirano M, Zang L, Oka T, Sakamoto C, Kuroyanagi J and Tanaka T
Gene. 446:18-27 2009
3)In vivo imaging of zebrafish retinal cells using fluorescent coumarin derivatives
Kohei Watanabe , Yuhei Nishimura , Takehiko Oka , Tsuyoshi Nomoto , Tetsuo Kon , Taichi Shintou , Minoru Hirano , Yasuhito Shimada , Noriko Umemoto , Junya Kuroyanagi , Zhipeng Wang , Zi Zhang , Norihiro Nishimura , Takeshi Miyazaki , Takeshi Imamura and Toshio Tanaka
BMC Neuroscience 2010, 11:116
4)Diet-induced obesity in zebrafish shares common pathophysiological pathways with mammalian obesity
Takehiko Oka1, Yuhei Nishimura1,2,3,4, Liqing Zang5, Minoru Hirano1, Yasuhito Shimada1,2,3,4, Zhipeng Wang1, Noriko Umemoto1, Junya Kuroyanagi1, Norihiro Nishimura4,5 and Toshio Tanaka
BMC Physiology 2010, 10:21
Fig.1 リバース薬理ゲノミクスとフォーワード薬理を統合したオミックス創薬科学(1)
Fig.2 比較オミックスと比較フェノミックスにおけるゼブラフィッシュの役割
Fig.3 国際的にも急激に増加するゼブラフィッシュを活用した医学生物学論文(PubMed)
Fig.4 独自に創成した食餌性メタボリックシンドロームモデル(上)とコントロール(下)ゼブラフィッシュのCTによる内臓脂肪イメージング(4)
Fig.5 ヒト移植癌モデル(ゼブラフィッシュ)における腫瘍血管新生ライブin vivoイメージング
Fig.6 ヒト疾患モデルゼブラフィッシュは、ケミカルライブラリーによるフェノタイプスクリーニングとノックダウン/過剰発現による候補遺伝子スクリーニングによるターゲットバリデーションの強力なツールとなる(1)。