2017/02/10 |
ゼブラフィッシュ創薬とシステムズ薬理学
三重大学大学院医学系研究科システムズ薬理学教授 田中利男
ゲノム創薬の果実として多数の分子標的薬が実現しつつあります。しかしこのリバース薬理学の現実は厳しい状況にあり、現在なお治療が困難な難治性疾患(アンメットメディカルニーズ)に対する新しい治療薬開発は、2008年から2010年における臨床試験第二相の成功率はわずか18%であり、これら失敗原因の多くが、不充分な薬効であることから、従来のリバース薬理学がその役割を果たしていないこと及び最近の画期的新薬(First-in-Class)開発は依然としてフェノタイプスクリーニングにより実現していることやフォワード薬理学の重要性が、明白になりました。このリバース薬理学における危機的状況に対して2011年米国NIHが、困難を克服する戦略として定量的システムズ薬理学(Quantitative and Systems Pharmacology)白書を、報告しました。定量的システムズ薬理学は、薬理学、ゲノム医学、情報科学を融合し、薬理学とシステムズ生物学を統合した新しい研究開発戦略であります。一方このシステムズ薬理学を実現する研究開発戦略としてゼブラフィッシュ創薬が、国際的に注目されるようになり、実際いくつかのFirst-in-Class創薬が成功しており、その創薬戦略はオミクスを基盤とするハイスループットinvivoフェノタイプスクリーニングによるフェノミクス創薬であります(Nat Rev Drug Discov.2015,14:721)。すなわちフォワード薬理学とリバース薬理学の統合的ツールとして、そのポテンシャルの大きさが明らかとなりつつあります。さらに今後ICHガイドラインにゼブラフィッシュが導入されることから、規制科学の観点からも無視できなくなり、多くの製薬企業やCROが、ゼブラフィッシュ創薬のインフラ整備を急ぐ必要性が出てきました。また我々のゼブラフィッシュ創薬ツール開発により、in vivoフェノタイプスクリーニングの高速化、定量化、自動化、高度化などが可能となり、オミクス解析の急激な発展に対応でき、リバース薬理学と統合的な研究戦略が可能なフェノミクス薬理学が実現し、定量的システムズ薬理学のコアとなる実践的研究戦略の一つとなりつつあります。具体的には、多数の病態モデル創生(心筋症モデル、ヒトがん幹細胞移植モデル、網膜疾患モデル、メタボリックシンドロームモデル、脊髄損傷モデル、BBB障害モデルなど)や新規リード化合物発見(選択的ヒトがん幹細胞阻害薬、脂肪肝治療薬、脊髄損傷治療薬など)を、報告しました(1-14)。さらに臨床個別化医療として、受精後36時間以内のゼブラフィッシュ移植におけるヒトがん細胞の圧倒的な生着率や生着スピードが24時間以内で速いこと、移植に必要なヒトがん細胞が200個以下であり、2日間で薬効が定量解析できるなどの利点から、臨床体外診断システムとしては免疫不全マウスに比較して、真の個別化医療ツールになることが期待されています。従来の個別化医療は、遺伝子多型(ゲノム)、遺伝子発現レベル(トランスクリプトーム)、プロテオーム、メタボロームなどのオミクスを基盤とした大規模集団統計学の予測により構築されようとしております。一方、臨床がん検体移植ゼブラフィッシュによる個別化医療は、各患者がん検体のフェノミクス解析結果を、その患者の治療薬選択や投与用量決定に活用する真の次世代個別化医療であり、大きなパラダイムシフトが実現しつつあります。1)ACS Chem Biol.2016,11:381-8, Front.Pharmacol.2016, 2)7:57-,3)119-, 4)126-, 5)162-, 6)206-, 7)10:3389-, 8) Transl Res.2015, 170:89-98, 9)Biomaterials.2015,52:14-25, 10)Toxicol Sci.2015143:374-84, 11) Nutr Metab(Lond)2015, 12:17-, Front Pharmacol.2015, 12)6:199-, 13)257-, 12)Methods Mol Biol.2014, 1165:223-38, 13) PloS One.2014, 9(1),e85439, 14) Int J Obes(Lond).2014 38:1053-60