2011/05/24 |
第6回日本ケミカルバイオロジー学会年会(2011年5月24日 東京工業大学 大岡山キャンパス 70周年記念講堂)で「メベンダゾールによる網膜発生障害のケモゲノミクス」について発表します。
ヒトの鞭虫感染症治療薬であるメベンダゾールはラットを用いた発生毒性試験で催奇性が報告されている。メベンダゾール類似化合物であるアルベンダゾールやフルベンダゾールなどは、同様の試験で小眼症や無眼症などの眼球の発生障害が報告されている。また、ゼブラフィッシュにおいて、メベンダゾールは網膜発生障害を誘発することが示唆されている。そこで我々は、メベンダゾールの網膜発生障害を引き起こす機序についての検証を行った。様々な濃度や時間でゼブラフィッシュ稚魚にメベンダゾールを投与し、独自に開発した網膜可視化色素(BMC Neuroscience 2010,11:116)によるライブイメージングを行い、網膜の発生毒性を検討した。ゼブラフィッシュの網膜は、ヒトの網膜との間で組織構造や発生における分子機構が高度に保存されていることが知られている。我々は、メベンダゾールの投与により、低濃度では網膜の内網状層の形成が選択的に障害されるのに対し、より高濃度では網膜構造全体の形成異常が生じることを新たに見出した。また、内網状層の形成異常には、内網状層形成のごく限られた時期の曝露が重要であることを明らかにした。さらには、メベンダゾールの類似化合物である鞭虫感染症治療薬のアルベンダゾールや有糸分裂阻害薬のノコダゾールの投与も、同様に内網状層の形成異常を引き起こすことを明らかにした。メベンダゾールによる網膜内網状層の選択的発生毒性の分子機構を明らかにするために、複数の暴露条件においてDNAマイクロアレイを用いたゲノムワイドな遺伝子発現解析を行った。その結果、p53 pathwayに関連する遺伝子群の発現がメベンダゾールの曝露により亢進していることが明らかとなった。そこで、アポトーシスマーカーであるアクリジンオレンジにより網膜のライブイメージングを行ったところ、シナプス結合により内網状層を形成する神経節細胞や内顆粒層の細胞に著明な染色性の亢進が認められた。また、発現変動遺伝子群に対して、ネットワーク解析を行った結果、ヒトにおいて網膜色素変性症の原因遺伝子として同定されているPRGR,NPHP1,RPE65, RLBP1の四つの遺伝子の発現量の低下が、網膜発生毒性に関与している可能性が示唆された。本研究により、メベンダゾールとその類似化合物が網膜発生に影響する分子機構を解明したので報告する。